「……日織(ひおり)さん」

 そんな私から先に視線を()らされたのは修太郎さんで。

「そんなに見詰められると照れてしまうのですが。……ひょっとして、僕の顔に何か付いていますか?」

 照れ隠しか、視線を上方にかわしながら鼻の頭を掻かれる修太郎さんの仕草が愛しくて。
 私はいそいそとかなり先を歩かれる健二さんをチラッと盗み見てから、修太郎さんの手をほんの少し引っ張った。そうしてちょっと背伸びをすると、それに気付いた修太郎さんが気持ちかがんでいらして。

 私は修太郎さんの耳元に、早口で「修太郎さんのスーツ姿、凄くかっこいいです」と告げる。
 修太郎さんは一瞬固まったようになられてから、「……ちょっ、その不意打ちは……ずるいです」と耳まで真っ赤になさった。


「日織さん、兄さん、早く来ないとエレベーター来ちゃいますよ?」
 そんな私たちに、早くもエレベーターホールに到達した健二さんが声をかけていらして。

 私は修太郎さんと顔を見合わせる。

 健二さんの方へ歩を早める寸前、今度は修太郎さんが私の耳に唇を寄せて、
「日織さんも今日のワンピース、とてもお似合いです。あまりに可愛らしくて、逆に脱がせてしまいたくなります」
 とおっしゃった。

 今度は私が、修太郎さんの吐息を感じた耳を押さえて真っ赤になる番だった。