あなたに、キスのその先を。

 三人で連れ立って歩き始めたけれど、結局私は今もなお、修太郎(しゅうたろう)さんと手を繋いだまま。
 私のすぐ右隣に修太郎さん、左のほんの少し前方に健二(けんじ)さん。

 歩きながら恐る恐るお二人のお顔を見比べてみたけれど、健二さんは戸惑う私を時折振り返り見ては笑われるばかり。修太郎さんはそんな健二さんとは対照的に、素知らぬ顔で澄ましていらして。でも決して私の手はお放しになられなくて。

 こちらを一向に見ようとしてくださらない修太郎さんに()れて、私はそっと絡められたままの修太郎さんの手を引っ張る。

「あの……しゅ、塚田(つかだ)さん?」

 一応健二さんの前ではあるし、何となく職場モードで苗字をお呼びしたら、健二さんにクスクスと笑われてしまう。

 そんな健二さんを一瞬睨み付けると、修太郎さんが「日織(ひおり)さん、いつものように修太郎と……」とおっしゃって。

 確かにお二人とも私のことを先ほどから下の名前で呼んでおられるし、恐らく今はお仕事中ではないからそれでいいんだとは……思う。思うけれど、やはり高橋さんだとずっと思っていた方の前で――ましてや仮にも許婚(いいなずけ)である健二さんの前で――その呼び方でいいのかな、とか考えてしまって、私は思い切れずに躊躇(ちゅうちょ)する。

 さっき、修太郎さんに肩を叩かれたときは、咄嗟(とっさ)のことで思わずお名前を口走ってしまったけれど、あの瞬間、私は健二さんの存在には気付いていなかったのだ。