あなたに、キスのその先を。

「あの、健二(けんじ)さん、いま何て……?」

 聞き間違いでなければ、彼は確かにレストランの予約は四名で、尚且(なおか)つどなたかをお待たせしておられる、とおっしゃった。

「ええ、もう一人増える予定なんで」

 ニッ、と笑顔になる健二さんを見て、私はキョトンとしてしまう。

 横に立っておられる修太郎(しゅうたろう)さんのお顔を見つめたけれど、どうやら彼も初耳だったみたい。

「おい、健二そんな話……」

「ええ、兄さんにもしてませんでしたね。まぁ、会ってからのお楽しみってことで」

 悪びれた様子もなく健二さんがそうおっしゃるのへ、修太郎さんが溜め息をおつきになる。

「ホント、お前はいつも……」

 それっきり、修太郎さんは(あきら)めたようにその件については言及(げんきゅう)なさらなかった。

 代わりに、私の手をぎゅっと握っていらしたのが、下の子に手を焼くお兄さんの苦悩を物語っているようで、私は修太郎さんを困らせる健二さんのことが、何だか少しうらやましく思えてしまった。