「お父様、お母様、行ってまいります」

 両親にも今日のことはお話してあった。健二(けんじ)さんと二人きりでお会いするお約束をいたしました、と。

 何のために、とかそう言うことは一切割愛(かつあい)したのは、自分のズルさだと思う。

 とりあえず健二さんとお話がつかないことには、とてもじゃないけれど他の方々を巻き込める自信が、今の私にはなくて。

 許婚(いいなずけ)との初めてのデートのために、娘が(めか)し込んでいると思っていらっしゃるであろう両親には、申し訳ない気持ちで一杯で。

(ごめんなさいっ)

 私は心の中で何度も何度もお二人に謝った。

日織(ひおり)、本当にホテルまで送って行かなくていいのかい?」

 お父様が出がけに心配そうに聞いていらしたけれど、私は全力でお断り申し上げた。

「大丈夫です、お父様。私にとってはこれも大事な社会経験です」

 にっこり笑ってそう言ったら、お母様がほんのりと瞳を潤《うる》ませて私の手を握っていらしたので、びっくりした。
「日織、貴女、本当に成長したわね」

 それは寂しさを滲ませつつも、どこか誇らしげでもあって。

「そうだと嬉しいです」

 お母様の手をギュッと握り返すと、私はにっこり微笑んだ。