あなたに、キスのその先を。

日織(ひおり)さん、ずいぶん成長なさいましたね』

 私は健二(けんじ)さんがお怒りになられても仕方がないと思って言ったのだけれど。

 健二さんは何故か嬉しそうにそうおっしゃられて。

『俺はね、何でも俺の言いなりになる貴女のことが、実はちょっぴり苦手でした。俺はそんなに暇じゃないんで、自分で物事を考えられないような女性(ひと)とは正直なところ、面と向かって話す価値すらないと思っていました』

 だからこそ、私に外へ出て自分の在り方を見つめ直して欲しかったのだと、健二さんはおっしゃった。

『まぁ、もっともそれだけが理由ってわけじゃなかったんですけどね……』

 聞かせるとはなしに小さくつぶやかれた言葉が耳に引っかかって、私は思わず「え?」と聞き返す。

『あ、いや、それはこっちの話なんで気にしないでください。――ところで』

 私はもっとそこを掘り下げてお聞きしたかったのだけれど、健二さんは()かれたくなかったみたいで。すぐに話題を変えられてしまう。