あなたに、キスのその先を。

***


 電話をかけるという行為はどうしてこんなにも緊張するんだろう。

 自室に戻って、健二(けんじ)さんの連絡先をスマートフォン内の電話帳から呼び出すと、ベッドに腰掛けて深呼吸をする。

「健二さんのご都合の宜しい日に、一度お会い出来ませんか?」

 馬鹿のひとつ覚えみたいにさっきから何度も何度も同じ言葉を繰り返している。
 通話ボタンを押して、相手に通じてからでないと何度重ねたって意味のない行為なのに。
 心臓がバクバク言って、スマートフォンを持つ手が小刻みに震えている。

 何度目になるかわからないけれど、私はもう一度深呼吸をした。

 ……と、手の中のスマートフォンがいきなりブルッと震えて、思わず飛び上がってしまう。着信音はシャラーン!と一瞬だけで。

 驚きの余り着信と同時にベッド上へ放り投げてしまったスマートフォンを恐る恐る取り上げると、画面に新着メッセージの到着を知らせる通知と一緒に、『修太郎(しゅうたろう)さん』と出ていた。

「修太郎さんっ!」

 はからず笑顔になって、急いで通知をタップすると、ショートメッセージの画面が開いた。

 画面上に、吹き出しマークが出ていて、そのなかに

『いま、無事家に帰り着きました。
 日織(ひおり)さん、色々大変だとは思いますが、頑張ってふたりで乗り越えて行きましょうね。
 さっきお別れしたばかりだというのに、可愛い貴女のお顔が見たくてたまりません』

 絵文字も何もない、文字だけのシンプルなメッセージ。それなのに、ちゃんと私をとろけさせる甘い言葉も書かれていて。全てが、修太郎さんらしく思えて、嬉しくて照れてしまう。

 私は修太郎さんから頂いたメッセージを、愛しい気持ちに突き動かされるように、指先でそっと撫でた。

 と、それに反応して、予期せず返信文入力の画面になって。
「あ、返信……」
 そこでやっと、そのことに思い至る。

 通話と違って、メッセージには返信を返さなければ送った側には受け手の反応は伝わらない。