荷物を置いて、スマートフォンだけを手に、お父様のおられる書斎へ向かった。
「お父様、日織です。――ただいま戻りました」
扉の前に立ち止まって、ノックをしながら声をおかけしたら、「入りなさい」と返事があった。
そっと扉を開けて中へ入ると、お父様は真剣なお顔で書類とにらめっこをしていらして。
「あの、お忙しいようでしたらまた後で出直します……」
奥へ向かって歩き出さず、入り口のところで父の背中へそう言ったら、お父様は「いや、大丈夫だよ」と書類を机上に置いてから、「おいで」とこちらを向いて手招きしてくださった。
「携帯を契約してきたんだね?」
私の手にしたスマートフォンにちらりと視線を流しながら、お父様がおっしゃる。
「はい。一人で全部決められました。初めてです、こんなの!」
思えば、今までほとんどのことを、目の前にいらっしゃるこの父親がやってくださっていた。お母様も、お父様の指示で色々動いてくださって……私は何もしないでも何不自由なく暮らしてこられた。
でも、だからこそ今回のように未知のことを一人で成し遂げる喜びは得られていなかったんだと思う。
「お父様、日織です。――ただいま戻りました」
扉の前に立ち止まって、ノックをしながら声をおかけしたら、「入りなさい」と返事があった。
そっと扉を開けて中へ入ると、お父様は真剣なお顔で書類とにらめっこをしていらして。
「あの、お忙しいようでしたらまた後で出直します……」
奥へ向かって歩き出さず、入り口のところで父の背中へそう言ったら、お父様は「いや、大丈夫だよ」と書類を机上に置いてから、「おいで」とこちらを向いて手招きしてくださった。
「携帯を契約してきたんだね?」
私の手にしたスマートフォンにちらりと視線を流しながら、お父様がおっしゃる。
「はい。一人で全部決められました。初めてです、こんなの!」
思えば、今までほとんどのことを、目の前にいらっしゃるこの父親がやってくださっていた。お母様も、お父様の指示で色々動いてくださって……私は何もしないでも何不自由なく暮らしてこられた。
でも、だからこそ今回のように未知のことを一人で成し遂げる喜びは得られていなかったんだと思う。