そのまま自分の胸元に彼の手を持ち上げて抱きしめると、

「今夜必ず健二(けんじ)さんにお電話して……彼とお会いする約束を取り付けます。健二さんにお会いしたら、そのときにはちゃんと修太郎(しゅうたろう)さんのことを……。好きな人ができたことを正直にお話して婚約を解消していただけるよう、お願いするつもりです。……なので修太郎さん。全部おさまるまで……私にお時間をいただけますか?」

 修太郎さんの目を見つめながら、一生懸命胸のうちを吐露(とろ)した。

 その間に修太郎さんも、ご自身の問題を解決してくださるといいなと思ったけれど、声には出さずにおいた。
 その件は、私が強要することではないから。

 彼の左腕を抱きしめたまま、そんなことをあれこれと考えていたら、緊張からか、胸がドキドキと高鳴ってきて。きっと修太郎さんにも伝わってしまっているだろうな、とソワソワした気持ちになる。
 それでも私の本気を知っていただくには、やはりこういう方法しか思いつけなくて。

 修太郎さんは、そんな私の顔をしばらくの間じっと見つめていらしてから、おもむろにそっと右手を伸ばすと私の頬を撫でていらした。

「また、日織(ひおり)さんを泣かせてしまいましたね……。僕はただ、貴女を笑顔にしたいと思っているだけなのに、いつも気が付いたらこんな風に日織さんを追い詰めてしまってばかりです。でも、――それでもごめんなさい。僕はキミを手放してあげられそうにない。だからせめて……僕のほうでも処理しておかなくてはいけないこと、ちゃんと済ませるようにしておきます」