あなたに、キスのその先を。

***


 全ての手続きを終えてdocono(ドコノ)ショップを後にすると、外はすっかり薄闇に包まれていた。

 私は少し迷ってから、通りに面していて割と明るい街区公園に寄り道をした。
 街灯そばのベンチに腰掛けると、ドキドキしながらアドレス帳を開いて、修太郎(しゅうたろう)さんのお電話番号を呼び出す。

 たどたどしい手つきで通話ボタンを押すと……ちゃんとコール音がして。
『もしもし……?』
 わわわ、通じた!

 耳元へ直接聞こえてくるような修太郎さんのお声に、そういえばお電話でお話しするのは初めてだったとドギマギする。

「あ、あの……修太郎さん。ひ、日織(ひおり)です」

 電話で相手に自分の名前を名乗るだけのことが、こんなに照れ臭いなんて思わなかった。

 あまりに緊張しすぎて、スマートフォンを握る手が冷たくなってしまう。

『無事に契約できたみたいですね』

 私がパニックになりかけているのを察したのか、修太郎さんが電話口でふっと小さく吐息を漏らされた。

「あ、修太郎さん、今、笑いましたね?」

 彼に突っ込んでそう言うと、少しだけ気持ちが落ち着いてくる。