「お、皇明」

廊下を歩いているとふいに名前を呼ばれた。足を止めて振り返ると、そこには同じ学科の友人が「よ」と片手を挙げていた。


「お前も今終わったとこ?」

「ん」

「じゃあ途中まで一緒に帰ろーぜ」


そんな成り行きで共に大学を後にして、駅の方に向かう。


「そういやお前これから暇?ちょっと駅前ぶらつかねえ?」

「あー…わりぃ、今日はちょっと無理」

「なに?女?」


にやにやとした笑みを携えてそう聞いてきたそいつに「まぁ」と肯定を表す返事を返せば、そいつは笑みをいっそう深めた。


「皇明んとこって仲良いよなー、しょっちゅう会ってんじゃん」

「しょっちゅうってほどでもねえよ」

「いやいや、多いほうだろ」


小さい頃から常に一緒に居た俺らからすると、むしろ大学が別になった今の方が会う頻度は減った。けれど、傍から見るとこの頻度は“多いほう”らしい。

つくづく、感じ方ってのは人それぞれなんだなと実感する。


「お前らって幼なじみなんだっけ?」

「そーだけど」

「いいよなー、そういうの」

「……」


思わず足を止めてしまいそうになった。

どうやらこいつはよっぽど“幼なじみ”という関係性に憧れているのか、そのワードが出る度に今みたいに「いいよなー」とぼやく。

俺には何が“いい”のか全く理解できない。


その時、ポケットの中でスマホがちいさく振動した。取り出して確認してみれば、里茉からメッセージが届いていた。


「……なあ」

里茉から届いたメッセージを読んでから、隣に立つ友人に声を投げると「んー?」と間延びした返事が返ってきた。


「俺ちょっとスーパー寄ってく」

「スーパー?なんか買うん?」

「いや、ガチャガチャする」

「は?ガチャガチャ?」


うん、と頷いた俺にそいつは目をぱちくりさせながら「ガチャガチャって、ガチャガチャ?」と、壊滅的な質問を投げかけてきた。