「…もう時間?」

「ううん、まだ家出る時間まで余裕あるよ」


やわらかいその猫っ毛を撫でる私に「そ」と短く返事をした皇明は、すぐに言葉を続けた。


「お前今日、どこであんの」

「え、なにが?」

「サークルの飲み会。あるって言ってただろ」


わしゃわしゃと髪を撫でていた手が思わずピタリと止まる。あんなに興味無さそうな相槌を打っていたのに、どうやらしっかり聞いていたらしい。そしてその上、覚えていただなんて驚きだ。


「迎え行く」

「…別に、迎えが無くても平気だよ?」

「いや、お前の平気とか大丈夫は基本信用してねえから」


すぐに「終わったら連絡しろよ」と付け足した皇明に、頬が緩むのが抑えきれなかった。


「おい聞いてんのか?…って、何笑ってんだよ」


いつまで経っても返事をしない私に痺れを切らしたのか、顔を上げた皇明は、私と視線が合うや否や眉根をグッと寄せた。


「ふふふ。だって嬉しいんだもん」

「はぁ?信用されてねえのが嬉しいとか、意味分かんねえ」


皇明は“恋人”にシフトチェンジしても私にデレデレなんかしないし、愛を囁いたりもしない。

けど、こうして過ごす何気ない日常の瞬間に、私を想ってくれている行動が散りばめられている。

それを実感する度に嬉しくなって上機嫌になってしまうんだから、私ってほんと現金だと思う。










「ねぇ、皇明」

「…なに」


聞くところによると、どうやら男ってもんは、“自分のモノになるまで”が一番 燃えるらしい。

例えそれが本当だとしても。
もしあの頃のような必死さがもうどこにもないとしても。

私が皇明の行動や言葉を愛だと感じるうちは、きっとそれは紛れもなく、愛なんだと思う。









「けっこー好きだよ」



ふふふ、と笑いながらそう言った私に、皇明はまだ眠そうな目をいっそう細めて、「あっそ」と呟いた唇を、私の頬にやさしく押し付けた。




Rの愛。 -fin.-