「結局 男ってのは自分のモノになるまでがいっちばん楽しいのよ!!!」

「…それさっきも言ってたけど…」

「大事な事だから2回言ったの!!!」

「…なるほど」


こくり、静かに頷いた私に、友人はフンっと鼻息を荒く吐き出す。

まだかなりご立腹の様子だけれど、どうやら涙は止まったようでホッと胸を撫で下ろす。

後は声のボリュームさえ落としてくれれば、心置きなく鮭定食を食べる事に集中できる。

そう思いながら止まっていた箸を動かし出せば、向かいに座って頬杖をついている友人はメイクが崩れた目で此方をじいっと見ながら開口した。



「いいよねぇ、里茉《りま》は」

「え、なにが?」


鮭の身をほぐしながら首を傾げる私を、友人は心做しかジトリとした目で見てくる。


「だって里茉が今付き合ってる人って元々は幼なじみだったんでしょ」

「うん、まぁ…そうだけど」


それは事実だ。

私たちの関係に“恋人”という名前が付けられる前は、“幼なじみ”という名前がついていた。

それは紛れもない事実だけど、何が“いい”のかが分からない。



「だってそんなの安定じゃん!!」

「安定……」

「そう!もうお互いがどういう人間かって事、よぉ~く知った上で付き合ってんだから、安定しきってんじゃん!」

「…なのかな?」

「そうでしょ!どう考えても!少なくともあたしみたいにポイッと捨てられる結末とは無縁でしょーが!」

「……」


…そう、なんだろうか。


なんて言葉を返していいか分からずに、まるで誤魔化すように鮭を口の中に放り込めば、取り切れていなかった骨が舌に刺さって、少し痛かった。