運命の歯車


「冷えたでしょ。な? あったかいもの飲んで、頑張って帰りな」

「は、はぁ」

「俺はこの崖に用があるから、送れないけど」

「あっ田中さーん、生きてますかー?」

 彼は走っていき、崖に、やまびこみたいに声をかけている。エコーさんは返事をしない。

「あ……あぁ……」

流れで手にした銀色の水筒。開けたら、ほかほかと湯気がたっていた。
ごくっと、味噌汁より先に唾を飲む。

「飲んじゃいなー! イエイ! 熱々だよーん!」

田中さんと私に交互に話しかける青年。

「はい……」

「毒は入ってませーん! ついでに俺口つけたりしてないからご安心を! うちの母ちゃんに証言とれるんです」

「へぇ」

お母様を存じない。

 つまりあの人は、私に渡すためだけに味噌汁を作ってきたのか。
なんてことだ。

「田中さーん!」

青年が元気よく声をかけている。何があったかは知らないけど、田中さん無事だろうか。

心細さが一気にほどけてきて、私は、なんだか胸がいっぱいで泣きそうになっていた。
そっと、蓋のコップに注いだ味噌汁をすする。
あたたかさが身体中に染みていく。

あぁ、生きている。