運命の歯車



そして、この道からは帰れない。

もう60分は歩いたのに……

「とほほ」

私は自分にあきれながら、また歩き出す。
近くには家も何もない。
 気温がさがってきており寒さが私の熱を奪っていく。
ここは田舎で帰り道が山の中だ。すぐコンビニが見つかるとこじゃない。
かじかんだ手足。
思考がうまく回らなくなってきた。

これは、まじでやばい。

もしかして、もう死ぬのか。
生きてるうちにお味噌汁くらい、作れるようになりたかったな……

空はだんだん暗く影を増していった。
一人で暗闇の中をずっとあるく。もはや歩いてるのか、身体がゆれているだけなのかわからない。
 ふっと意識が遠退き始めた頃。
背後から車の音。

え、嘘。
わざわざこんなところに人が来るわけがない。

数メートル先から、窓の向こうでぱくぱくと口を動かす男の人。

「え? なに?」

私は夢中でそっちに向かった。もはや頭がまわらなかった。
せめて、一瞬、誰かとふれあって死のう……

「きみ、大丈夫だったー? あのさ、さっき俺の車の横でこけてたでしょ!」
停車すると、そこから駆け寄るのは梅雨の空の暗さには似合わないくらい少し日に焼けた、健康的な青年。
さっきから、大丈夫だったかと私に聞いてたらしい。


「あぁ、はい……」

「良かった! 俺味噌汁持ってるんだけどさ!」

そう言ってあたたかそうな水筒をこちらに渡そうとしてくる。

「え? あのっ」

「この辺ややこしいからなー。この雨で、道間違えちゃったんだろ」

「はい」

ずいぶん自分のペースで話す彼は、自分が濡れるのも気にせずに味噌汁をひたすら押し付ける。