先輩とお喋りに夢中な昼休みを終えて席へ戻る途中。
 とあるポスターが目に入る。

「未来の自分の為の投資……」
「丘崎さん株とか投資信託に興味あるの?」
「才能無いのは分かってるのでその手のはしません。けど、
自己投資は今からしておいたほうが良いのかなって」
「キャリア組に行きたいならしたほうが良いでしょうね」
「……」
「結婚は考えないの?貴方から彼氏の話は聞こえてこないけど、
探してはいるんでしょ?それとも言わない主義?
言っとくけど仕事を恋人にすると後で寂しさがこみ上げるぞ~?」
「考えますけど。今よりももっと活躍できる人材になりたいなぁと」

 彼氏が会社のトップだから釣り合いとか考えてしまうのかもしれない。
それ以上に私の中でもっと中枢で働きたいという気持ちがあるみたいで。
 当然お給料だって良くなるし。

 その分求められる物が増えて失うものもある。どう折り合いをつけるか。

「若さだね。偉い偉い」
「実力が伴ってないですけどね。上司からもっと英語の勉強をしろって。
外国の人相手になるとちょっとした挨拶すら緊張してできなくて…」
「会社で英会話教室やってた時期もあったけど今はしてないんだよね。
なんせ英会話なんて出来て当然の時代だから」
「うわあ……」
「緊張するのを何とかするなら教材より実際に話してみれば?
丁度海外支部から何人か来てるし。
中でもクロフォードさんは日本語も堪能って聞いたよ」
「実際にですか……」
「最初は女性の方が良い?」
「子どもとかのほうが嬉しいです」
「こども」

 だって外国の人って言葉は当然として大柄だし顔つきも違う。
今まで生きてきた世界では見たこと無いから緊張する。なんて言うと
 今どきそんな子いる?って驚かれるんだろうな。

 私の自己投資は美容よりも英会話教室。だけど、その前に先輩から
聞いた相手がどんな人かちょっと様子を見に行こうかな。

 別に英会話教室代をケチってるわけじゃない。興味本位で。


「お疲れ様です。今って大丈夫でしょうか?」
「ん。なに」
「クロフォードさんってどういう感じの人かご存知ですか?」
 
 仕事終わりに彼が働いているという部署へ向かう。
当然知った顔なんかない、
 所に丁度一瀬さんが見えたので呼び止める。

「もしかして丘崎さんも声かけられた?」
「え?」
「昨日は秘書課の若い子が同じ質問しに来た。
その子には適当に返事したけど丘崎さんにはきちんと教えておく。
見た目良いし仕事も出来るけど気に入った子に声かけないと気が
すまない男だよ。それも大体一晩だけの完全割り切り」
「なるほど」

 これは駄目そう。やっぱりちゃんと投資しなきゃ。

「俺も知りたい。仕事終わりに会いに来るってどんな関係?」
「先輩からちらっと名前を伺っただけです。英会話教室の相談をしてて」
「昼間は使えない英会話を教え込まれるから止めたほうがいい」
「きちんと通います」
「頭にインプットするのに軽く3000時間はかかるらしい」

 始める前から頭がクラっとしたけど今から挫けたら駄目。
苦笑いしていると私達の側を颯爽と歩いていく、長身で金髪の男性。
 チラっとこちらを振り返ったと思ったらウインクして去った。

 映画やドラマ以外であんな自然に出来る人を初めてみたかも。

「今のがクロフォードさんですか」
「そう。日本のオフィスだと結構目立つ」
「俳優みたい」
「それはそうと。俺も仕事終わりなんだ。誘っても断る?」
「丁度お弁当を買いたいので、帰るだけなら」
「っ……よし。じゃあ、すぐ用意する」

 諦めがついたし少しだけ貯まっていた貯金も自己投資に消える。
でも、これも全ては自分のためだ。
 どんな未来を想像しているのかまだ明確には見えてないけれど。

「ご家族?」
「姉」
「なにか良いことあったんですか?さっきからこっちを見てます。
凄くいい笑顔で……」
「弁当が売れて嬉しいだけ」

 お弁当屋さんで若干の気まずさを感じつつ、帰宅。

 事前に二人分のお弁当を買って帰ると伝えてあるので
 それに合わせてお茶などの用意をしてくれていた。

「私が髪を金色にする?何故?」
「そんな創真さんも見てみたいなって」
「君が何を企んでいるのか聞いてから考えよう」
「結論だけ言うと自分への投資のためです」

 もちろんそれで納得する訳もなく。
 食後にきちんとイチから事情を説明しました。

「教室へ通うという選択肢の前に君なりに試行錯誤した訳だね」
「はい」
「思考は柔軟で有るべきだと思うからそこは良いとして。金髪にした
所で君の英会話には何の効果ももたらさない。よって却下」
「はぁい」
「それと無闇に自分から男に近づかない。私も投資するから」
「創真さんが教えてくれるとかいう展開は」
「完ぺきを求める上に課題をクリアしなければ減給にするが」
「私に合う良い教室探します」

 スパルタは無理です。同じ理由で一瀬さんにも絶対頼まない。
 物凄く優しい教室を探そう。

「君の行動はいつも心配させられる。見張りを付けたいくらいだ。
けど、きちんと将来を見据えて考える姿勢は素晴らしい」
「実家と同じ轍を踏まないようにしたいから。私自身しっかり稼げないと」
「なるほど」
「創真さんの側に居るためにも」
「あまり気負いすぎないように」
「そうだ。男の胃袋を掴むのも大事って聞いたので明日は料」
「胃袋を潰されたくないから明日は私が何か買ってくるよ」
「え。つぶす?」


終わり