つまり部外者は席を外せって意味だよね。移動することは構わない、
んだけどこちらを見る彼の視線が怖い。

 どうか二度と社長に近寄るなっていう意味では有りませんように。

 せっかくイケメンな男の子なのに、泥棒でも見るような目を向けられて。
 そんな場面にも人にも慣れてないから困る。

「私」
「彼はお坊ちゃん育ちが長いものだから口の利き方が悪くて申し訳ない」
「高御堂っぽさは直したつもりなんだけど、出てた?ごめんね叔父さん」
「謝るのは私じゃないだろう。ほら、君も席について」

 店員さんに椅子を用意してもらって上からの怖い圧は終わる。
けど、それでも相変わらずいい待遇は期待できないみたい。私とは視線すら
 合わせないでスマホを見ているという態度のまま彼は炭酸水を注文。

 どうしようこの気まずい空気。

「見つかってよかったですね」

 よせばいいのにそんな言葉を2人に投げかけてみる。
 が、慧人君は無視。

「君から説明があるのかと思っていたけど。話が進みそうにないね。
お母さんを呼んであるからすぐに来るよ」
「分かってる。だからこの店にした。ママと語り合うには良い場所だし」
「少しくらいは親を心配させた事に後悔したらどうだ?」
「メモを残しておいたし。スマホのGPS付けてたから問題なし」
「いいや。君は暫くの間電源を切ったね。それで彼女が私の元へ来た」
「さすが叔父さん。俺の手の内なんかあっという間だ」

 初めてスマホから視線を社長に向けニヤッと笑う慧人君。
 だけど、相手は無表情のまま。

「子どもじゃないんだ。もう少しスマートにやれないのかい」
「俺は子どもなんだよ。それに素直にお願いしたって無理でしょう?
お互いに気を使って近づけない。もどかしいから場を整えてみただけ」
「自分の理想を人に押し付けるのは確かに子どもだ」
「何でもいいよ。子どもだから」

 そして再び視線をスマホへ戻す。ずっと指が動いているから
何か操作しているっぽいけど、今どきなSNS?友達とメールか
 或いはゲームでもしているんだろうか?

 何にせよこの真面目な空気の今でする事?
 
 でも私が注意なんか出来る空間でもなくて。
 それから数秒ほど黙っている時間があり。

 突然。

「慧人そのボタンを押すんじゃない。押したら君を許さないからな」
「うわっびっくりした。叔父さんって怖いくらいカンが鋭い時あるよね。
なんで分かったの?もしかして見えてた?」
「消すんだ」
「はいはい」

 何事か全然分からないけどチラっと私を見たから何かされそうになった?

「今でも君たち親子が幸せであればいいと願ってるよ。だけど私では響子さんを
幸せに出来ない。彼女はもっといい選択肢がある有能な人だ」
「ふーん。じゃあ彼女は幸せに出来るんだ?姪なのに」
「それは君には関係ない事だから。私と創真さんの問題なの」
「関係が上手くいってる時だけだよ?そんな感情論。全く現実的じゃない」
「そんなこと」

 言われなくても分かってる。けど。

「慧人。いい加減になさい」

 どう言い返そうか力んだ時に女性の声がして。

「ママ」
「それ以上は止めなさい。ママのパートナーが気に入らないからって」
「アイツはビジネス上の関係だろ。ママは本当は」
「恥ずかしいから止めて。本当にごめんなさい。連絡ありがとう」

 社長と同じくらいの年齢の女性が豪快に慧人君の腕を掴んで店を出ていった。
ゆっくりした会話もできないで。ぽかんとしていると。

「彼女が響子さんだよ。彼の母親で私の元義理の姉」
「みたいですね」

 同じくあっけにとられている様子の社長からフォローが入る。
 そして彼のスマホに彼女からの謝罪メッセージがあった。

「今更ではあるけど、ゆっくり食べて」
「頂きます」

 空気を読まずに最悪なタイミングにサンドイッチは到着して
もちろん食べるなんて行為は出来ずにずっと目の前で我慢していた。
 やっと食べられると急いで手を伸ばしてあっという間に完食。

「さっきの。ああ。あれは、……君の隠し撮り写真をいかがわしい
掲示板に上げようとしていたんだ」
「じゃあマンションの前で感じた視線と音って」

 掲示板がどういうものかは分からないけど隠し撮り写真を勝手に使う時点で
私を貶める行為だというのは分かる。それを平然と本人の前で?

「明日ラブホテルに行くんだよね?注意したほうがいいかも」

 恐らくは危険を察知した社長がとっさの判断で彼の心の中を覗いてくれた。
そんな力のない普通の人だったら私は今頃どうなっていた?

「実家に帰ります」

 高御堂家には関わらないほうが、いい。

「もう二度とさせない。……それでも、帰る?」
「……」
「分かった。無理強いの出来る立場じゃないから君の思うように」
「それか2人で引っ越すのどっちが良いと思います?」
「君が見ていた部屋サイトを私にも見せてくれる?」
「はい」

 これで何か物騒な事件が起こって私が泣くことになったら
 皆からお前は馬鹿だって言われるんだろうな。