今ならダッシュで行けば間に合う、かも。
いつかのようにエレベーターに乗り込めたら2人で話せる。

「あ」

 まさに社長が乗り込もうとしている瞬間が見える。
けど、彼は1人ではなくて。
 隣に居た女性を先に行かせて2人で乗った。
 
 一瞬だったけど戸橋さんだったような気がする。
 


「何階?」
「出来るだけ遠い階層でお願いします」
「君と冗談を言い合う仲になったつもりはないよ。
それに、丘崎君の噂を広めているのは何故だ」
「やっぱり社長には分かってしまうんですね」

 エレベーターの中は社長と女子社員のみ。
2人きりという空間で、
 入り口に立って距離を取るが相手の視線を強く感じる。

「社員たちに聞いていったら君にたどり着いた」
「嘘っぽいですね。ただの噂の為に社長が動くとは思えませんし。
私だって誰かから聞いた話しかもしれないですよ?
素直におっしゃればいいのに。心を見透かして私を見つけたと」
「悪いが君が思っているほど噂は広まっていなかったんだ」
「そう。…では、どうですか?私の気持ちは気づいてますよね」
「他人の気持ちには疎いものだから何も感じないね」
「私のお友達に刑事さんが居るんですけど、とある会社の社長について
面白いお話しを知ったんです。人を見通す力があるとか…」
「そうか。だったらその社長に占いでもしてもらえばいい」

 社長室まで付いてくる可能性を考えてもっと近い階のボタンを押した。
けれど、なかなか時間が進まない気がする。

 ドアが開いても社長が居ると他の社員は遠慮して乗らない。

「社長はただでさえ理想的な人なのに特殊な力もあるなんて。
昔からスピリチュアルなものに憧れていて。
そんな力が本当にあるのか確かめてみたいと思ってたんです」
「確かめる。か。なるほど……、相当変わってる」
「全く関係のない私にたどり着いたということは見えたんですよね。
本当なんだ。凄い。もちろん口外はしませんからご安心を。
だって秘密の共有は2人の関係をより強固なものにしますから」
「言い分は分かったから丘崎君を利用するのは止めるんだ」
「身内には優しいですね」
「あの子と、好奇心で人を傷つけようとする女と比べてほしくない」
「どんな女なんだろうって私に興味を持ちましたよね。
だからすんなり私を乗せてくれた。もっと理由が知りたいでしょう?
私の心を深く知ってください。覗かれる体感してみたいんです」

 そこでやっと自分が押した階層のドアが開いた。けど。外へは出ず。

「君たちの大きな勘違いを正してあげようか」
「どんな?」

 振り返って彼女と初めて面と向かい合い。

「怪物を前にして自分が安全な場所にいると思ってる事だ」
「……え」




 エレベーターを呆然と眺めていた所を先輩に肩を叩かれて我に返る。

 決めた。

 昼休憩入ったら社長室に乗り込んでいやる。もう秘書がどうとか関係ない。
何が目眩がするよあんな元気そうに美人と2人きりになって。

 許せないっ。

「大丈夫?何か顔が怖いけど」
「気合を入れてるんです」
「き、気合ね。まあ社長が視察しにきたみたいだし気合入るよね」
「はい。社長に気合入れてきます」
「ええ?」
「何でも無いです」

 すごく心配した分、自分が馬鹿みたいで腹がたってくる。
 男なんだからいい女を見たら優しくもなるでしょうけど。

 昼休み直前。どう尋問してやろうかと考えを巡らせていると。

「あ。あのね、丘崎さん?今いい?」
「はい」
「医務室に来てほしいってそこのスタッフさんから連絡」
「は?医務室?」

 呼ばれるような覚えはないけど行かないわけにはいかない。
 とにかく教えてもらった医務室へ向かう。

 ノックして入ると白衣を着た女性が居たけど挨拶も早々にベッドを
指差して部屋を出ていく。これから彼氏とお昼休憩、だそうで。
 そっとカーテンレールを外してみたらそこに寝ていたのは。

「やあ」
「創真さん!?」

 本当に何処か悪い?あれから倒れたとか?
 開けたカーテンをまた戻し彼の側へ。

「ちょっとふらついただけなんだけど秘書が診てもらえと。
病院へ行くほどじゃないからここで少し休憩していた所」
「今はどうですか。まだふらつく?目眩します?」
「大丈夫だよ。ここに座って」

 言われるままにベッドに座るとすぐに手を握られたので握り返す。

「何か用意しましょうか。私に出来ることは?」
「側に居てくれるだけで良い、それだけで心も休まる。
私の力は母方から来ているから君に影響は無いと思ったけど。
それとも一緒に居て移ったのかな?」
「良いですねヒーリング能力。でも私そんなキャラじゃないです。
他の女性と貴方がエレベーターに乗ったってだけで勝手に怒って。
ほんとに心の狭い……子どもで」

 腹が立って怒っていたのに本人を前にすると馬鹿らしくて。
 黙っていても良かったけど結局白状してしまう。

「見ていたのか。あれは会社の問題を解決していただけだよ。
君も言ったろ?燻ぶらせておくのはよくないと」
「話した問題って言うと……もしかして事件の事ですか?
犯人を刑事さんに話したんじゃなかったですか」
「刑事より先に犯人が来たから相手するしかなくてね」
「え…えぇえ!?」

 そんな、あの後に事件解決シーンがあった?
 大事な所見逃した!?まさか彼女がヒロインポジション…?

「この話は終了にして私達の話を」
「う…ううぅ…くやしい…私の…ポジション……っ」
「帰ったらちゃんと話すから泣くんじゃない」