朝から冷たい風が唸りを上げていた。





早く帰宅したいと逸る想いで、「家」へと携帯電話をかける気持ちと裏腹に、通話はぶちりと断ち切られた。

 この携帯電話は、暴力に合っている。
芸能人の画像流出とかも、まぁ要はそれなのだ。
それにしたって、市民の携帯にまでこうも露骨に幅広い支障が出始めたのは、やはりスマートフォンの普及と同時期だと思う。
「なぜ強引にスマホを流行らせたか想像がつくってものだ」と、家主は言っていたっけ。

 低めのブーツの足が雪に乗る。しょうがない気持ちで頭のなかで懐かしいMIDIを再生していた。

さく、さく、さく、さく。
雪を踏み鳴らしながら、曲を思い出す。
この「タイトルがない曲」は、ずいぶんと入院していたままの「彼女」が作ったものだった。
繊細なピアノ、荒くれたマリンバ。
吐く息が白い。魂もこんな色だろうか。早く帰宅したいものだ。様々なことを想いながらも、心にはずしりとのし掛かるものがあった。