おもむろに立ち上がって電気のスイッチの引き紐に手を伸ばす。

 たとえ電気を切ったところで、テーブルの上には例のランプがある。
 真っ暗闇になることだけはないだろう。

 引き紐を引く、カチン、カチン、カチン……という乾いた音が三回して、段階的に照明は明度を落としていき、やがて……切れる。

 僕は真っ暗闇の中、テーブルの上でほのかな明かりを広げるランプを見て、ホッとする。

「何だ、何も起こらないじゃないか」
 そう(つぶや)いて視線を上げた僕は――。

 壁や天井を突き抜けて部屋に入ってくる、透き通った人々の群れを見て愕然(がくぜん)とする。

「ヒッ……!」

 余りに恐怖が大きいと、悲鳴も上がらないのか。

 僕はガクリとその場に崩折(くずお)れた。いや、正確には腰を抜かした。
 電気をつけたくとも、立ち上がれなくては、引き紐に手が届かない。

 彼らは、テーブルの上で炎を揺らし続けている、例のランプの明かりに引き寄せられているらしく、次から次に部屋へ入ってきた。

 その様は、まるで誘蛾灯(ゆうがとう)に引き寄せられる羽虫(はむし)のごとく、止め()がなくて――。

 どんどん引き寄せられる霊たちの群れに、僕の部屋は徐々に幽界(ゆうかい)の者たちで満たされていく。

 物凄い数の霊たちが作り出す人ごみに囲まれて、僕は今度こそ身体の芯から深々(しんしん)と冷気に包まれて行くのを感じていた。

     終わり(2019.8.23)