美味しい(うなぎ)をたらふく食べて――今日はちゃんとうな重だけじゃなくて(ひつ)まぶしや肝吸いも食べさせてもらいました!――、ほわほわーんとした()()()()()()で帰宅した。

 とは言え私は未成年。
 もちろんほろ酔いといってもアルコールを摂取したわけではなくて、待ちに待った()と、()()()()()に酔いしれただけ。

 私がここまで浮き足立った気分になったのは、何も美味しい鰻をお腹いっぱい食べさせてもらえたから、ばかりじゃなくて。

 実際にはそのお店のその一室でした、頼綱(よりつな)とのファーストキスを思い出してしまった、というのが大きいと思う。

 こんなこと恥ずかしくて頼綱には言えないけれど、どんなに頭の中で取り消そうと頑張ってみても、鰻を食べた途端、彼との初めての〝キスの味?〟を思い出してしまったんだもん。

 結局私のファーストキスは、桃の甘い味と瑞々(みずみず)しい優しい香りなんかじゃなくて……。
 ましてや頼綱が「元気な花々里(かがり)にピッタリの明るい色だから」と選んでくれたスマートフォンのカラーみたいな酸っぱくて爽やかなレモンの香りでもないみたい。


 頼綱の唇を見て思い出すのは、茶色くてつやつやとした甘辛い濃厚なタレと、鰻のコッテリとした香ばしい……あのヨダレを誘うにおいのほうなの。