何日が過ぎただろう、、、。
重罪人のルーホーは何をする事も許されず
ただ牢の中で
生きる為の最低限の食事をし、
用をたし、寝る。
そんな繰り返しの日々。
ルーホーの精神はすでに限界に達した。
爆発した思いを拳に乗せ
何度も何度も壁を殴りつける。
拳からは血が滴り落ちるが
全く痛みも感じない。

その時、隣の牢から一人の男が話しかける。
「おぅおぅ!派手にやってるね〜!!」
「おい!静かにしろ!!」
すぐに看守の罵声が飛ぶが
ルーホーは暗い瞳を携え
ゆっくりと男の方を見る。

男はニンマリと笑みを浮かべると
口をしっかり閉じたままルーホーに話しかける。

「今にも全て壊してしまいそうな瞳!
さすが世界を変えた男だぜ!!」

「!!?」
確かに聞こえる声。
看守を確認するが全く反応していない。
薄暗くてよく分からないが
癖っ毛なのか伸びた髪はツンツン逆立ち
大きな釣り上がった瞳の彼が
背を丸めあぐらをかきながら
こちらを見つめている。

「ハハハ。お前でも狼狽えるんだな。」

またしても聞こえて来る声。
「???」
どうやらルーホーにしか聞こえていない声らしいが
全く意味が分からない。

「ここに長く居るとよ〜暇で暇で。」
「何か面白い事ねぇか、で、、、これ。」
「これは、まぁ糸電話みたいなもんだ。糸はねぇがな。空気の振動で話してる。お前の方に俺の声の空気をポイッってな。もちろんお前の振動も拾えるぜ。」

簡単に彼が説明するもの。
風の勉強をしてきたルーホー。
優秀で殆どの知識は習得してきた筈なのだが
初めて知る技術だった。

「まぁ俺もよ。風職人の端くれなんだ。と、言ってもモドキだけどよ。」
「俺の家は代々雲職人でな。雲を作る事が仕事だったんだ。」
「だけど俺、少し賢かったからさww大学まで行けたんよ。だけどついつい作っちまうのなwwまぁ手遊び程度だけどよ」
「でもこれ、結構面白いのよ。上の階の囚人の痴話喧嘩聞けたり、新しい囚人の情報を看守から聞き出したりなんてな。」

終始軽いノリで話す彼はルーホーより
4〜5歳ほど年上に見える。
でも話しぶりだけで分かる彼の技術の凄さ。
実習で風を操る術を一通り学んだルーホー。
それでも知らない、むしろ彼だけが作り出した技術が、発想が
天才的に思えた。

「まぁ風職人になれた筈の俺だがよ。
大学の研究所で"風と雲の関係性"ついて研究してた時に疑問が生まれて、
何で雲は作るばかりで壊さないのか?って」
「そんで論文でな。発表したんよ。『雲の必要性と破壊について』って。こんなん作ったらどうですか?ってノリでな。」
「そしたら『それは大地を揺るがす事態だ』
『コイツは悪の思想の持ち主だ』ってな。
で、ココよ。」
「まぁ確かにそうだわな。自分らが乗っかってる
雲を破壊しようって言うんだからさww」
「なんで大学中退で〜す。なんてなww
ってか悪いな。俺ばっかり話して。ここに居ると話し相手が居なくて退屈でさ〜。」
「それ、さっき言ったみたいに話せるぜ。
って言っても俺がお前のとこの空気を拾うだけだけどよ。」

そんな彼の気さくな言葉に
全てを話してくれた彼に
何より
誰とも話せず孤独だったルーホーの心が
彼を求め、

今まで溜め込んだ想いが涙となり流れ、
彼に事のなり染め一通りを語った。