その夜、男は昔集めたものを娘に見せてやろうと部屋に呼び出した。
しかし戸の前で何度呼ぼうとも娘は出てはこない。

男は、自分に声は掛けなかったが娘はすでに寝ているかもしれないと思った。

娘が寝姿を見るなと言っていたのを思い出す。
しかし何故か胸騒ぎがし、そっと部屋に入っていった。

すると寝床には、こめかみから血を流した黒髪の美しい女。青白く、力無くだが驚いた顔でこちらを見ている。
そばには血で所々染まった、解かれた長い当て布があった。

「お前なのか…!?その怪我はどうした!!なぜこんな事に!!」

すぐに医者が呼ばれ血止めの処置をされ、娘はしばらく安静にすることになった。

聞けば、娘自らでやったことだと言う。

「…この姿で貴方様に捨てられたくありません…見ないでほしいと言ったのに…。貴方様は普段の姿の私を見てはくれなかった…。私は悟ったのです。考えだけではなく、姿まで変えなければと…なので貴方様の考えに習い、自分を貴方様の望む姿に……」

顔を手で押さえ、さめざめと泣く娘。

よく思い返せば、前に自分に声を掛けた娘だったことにようやく気付く。

男は震えながら言った。

「…誰がお前に血を流せと言った!?お前が死んでは、私は誰と考えを共有すればいいのだ!?そこまで想ってくれたお前を、私は死なせるつもりは無い!!」

その言葉に娘はビクリと体を震わせ、男を見つめた。

「流れる血は美しい。生き物である証だからだ。しかし、それはあってはならないほど尊いこと…。お前が血を流す姿を見てよく分かった。私を想い、私を受け入れようとしてくれたお前に、そんなことをして欲しくはない…お前まで居なくなったら、私は……」