「ほら、おいで」



明るい音楽が流れ始めて、イベント開始の声がかかる。

わたしはそれから遠ざかって、静かな夜に駆けてゆく。

暗闇を駆けてゆく。

小さな街灯だけになった頃、織とミカのお兄ちゃんの姿が見えてきた。


織の姿は遠くからでも分かる。

どうしてか分からないけれど、昔からずっと、織を見つけるのは得意だ。

他の人とどこがどう違うとか、うまく言えないけれど、織の姿を見ると胸がきゅっとなる。



「おりーーっ」



思わず大きな声で、名前を呼んだ。

すると織は顔をあげて、驚いたように目を丸くした。

目が合うと、もっと胸がきゅっとなる。

織の隣にピッタリくっついているのは、ミカのお兄ちゃんだ。


…よかった

ふたりとも無事だった


こんなふうに誰かを心配したのは、これが初めてだ。



「ただいまっ」

「なんとか無事に帰ってきました!」



織は口をパクパクして、なにかを言いかけたけれど、きゅっと口を結んで、ふっと笑った。

なにかを必死に堪えているような、そんな笑顔だった。

不思議に思ったけれど、じっとしている暇なんてない。



「あのねっ、ミカのママとパパは、実はあそこのショッピングモールのイベントをやっているサンタさんで…、」



はやく行かなければ、そう思って必死に今まであったことを説明していた。

けれど途中で言葉を飲み込んでしまった。

なにを話していたのかを忘れてしまうくらい、織が泣きそうな顔をしているから。



「……織」