「ほら、おいで」




「…お兄ちゃん?」



まだ繋がれたままの小さな手。

幼いからか、体温が高い気がする。

…俺はまたあの日のことを思い出していたのか

ぼーっとしている俺の顔を、不安そうに覗くから、思わず笑ってしまった。



「……大切だから、」



じっとこちらを見つめる瞳。

その目尻に残った涙を、人差し指でなぞった。

もしかしたら、俺が言った“忙しい”の言葉で、立夏もこうして傷ついて泣いていたのだろうか。



「大切だから、」


「一緒においしいもの、

食べたいって思う」



立夏とご飯を食べたとき、幸せだと思った。

おいしそうに食べる姿を見て、朝ねむたくても、頑張って作ってよかったって思う。

それはきっと、この子の親も同じだ。



「…大切だから、心配する」



かしこいことなど言えない。

俺はそんなにいいオトナではない。

俺はまだ、子供だ。



「…ごめん、ウソついた」

「はぁ?!お兄ちゃんウソついたの?!」

「俺はオトナじゃない、まだ子供だ」

「…ふん、やっぱりな、俺はもとから分かってたんだ」

「…すげぇな」

「あたりまえだ」

「だから…ウソか本当かどうかは、聞いてみねぇと分からないかもな」



揺らぐ瞳を見つめながら、そう言った。

ママとパパに会えたとき、この子が素直になれますように。