「ほら、おいで」



その場にいなかった俺には、きっと分かることはできない。


立夏に怪我は一つもなかった。


怪我一つなく生きていることにホッとして、それと同時に自分を責めた。

俺のせいだ。俺のせいだ。

後悔ばかりが頭に浮かぶ。


そんなとき、立夏の母さんから電話がかかってきた。


事故を目撃したショックで、記憶がなくなってしまった、と。

事故を目撃した日の記憶がない。


それを知ったとき、贅沢だとわかっていながら、苦しかった。


生きているだけで幸せだ。

立夏が怪我ひとつなく、笑っていてくれるなら、幸せだ。

不満なんてない。


あぁ…でも、


恋人として過ごしたあの時間は、俺だけの思い出になってしまったのだろうか。


きれいだと言い合ったイルミネーションも、頬に触れた感触も、下手な告白も、手を繋いだ温もりも、


立夏にとっては、なかったことになってしまうのだろうか。


『……っ……っ』


どうして、涙が溢れてくるんだよ


何度も夢を見る。

俺だけが覚えている記憶を、何度も、何度も。