「ほら、おいで」



そう言って俯く姿を見て思った。

この子が知りたがっていることは、ただの沈黙をうめる雑談なんかじゃない。

そう気づいたところで…俺になにが…

この子に教えられるような、そんなかしこい話なんて準備していない。



「…やっぱりお兄さんも…俺といるのつまらないんだろ」



この子を笑顔にしてあげられるような、そんな言葉は知らなかった。



「ママとパパは…お仕事頑張ってるから、いつも忙しいんだってさ」

「おいしい食べ物を、みんなで一緒にたべたいからだよって、」

「でも…、そんなのぜったいウソだ」

「俺といるのがつまらないから、妹はママとパパのことだいすきだって言うけど、」

「じゃぁなんで、クリスマスくらい一緒にいてくれないんだよ」



必死に涙を堪えながら、手を震わせながら、それでもちゃんと、しっかり前を向いている。

なにも言えない代わりに、ぎゅっと、手を握り返した。


この子の話を聞いて思い浮かんだのは、立夏の笑顔だった。

中学卒業後、俺は立夏と連絡をとらなくなり、“忙しい”とその言葉で逃げ続けていた。


立夏と会うのが、怖かった。


一年前のクリスマスイブ。

立夏と恋人になって、イルミネーションを一緒に見て、幸せだった。