わたしの目の前で立ち止まった織は、目線をあわせるようにしてしゃがむ。
意外と大きくて色白な手で、私の両手を優しく包み込んでくれた。
「……風邪ひかれたら困る」
そう言いながらも、わたしの手を優しく、何度もさすってくれている。
…優しいところも変わってない
織に気づかれないように、そっと微笑んだ。
織の体温は高い。
だから、触れられるといつも安心する。
眠たくなってくる。
あれほど冷えていた指先が、織の優しい体温に溶かされていく。
「……ふぁ…」
ほっと安心したからか、
すごく眠たくなってきた。
でもちゃんと言わないと。
まだ伝えられてないこと。
眠くてまぶたが重いけど、これだけは言っておきたかった。
「おり、家に入れてくれてありがとぅ…」
「…母ちゃんと喧嘩して…家出したんだ…わたしやっちゃった…」
おり、嫌な顔ひとつせずに、受け入れてくれてありがとう。
言いたいことは言った。
勢いで余計なことを言ってしまったような気もするけど、きっと気のせいだ。
眠気が限界に達したわたしは、だんだん夢の中へとおちてゆく。
「俺へのクリスマスプレゼントなんじゃねーの?」
「……期待させんなよ」
ぼんやりとした意識の中で、最後に織がそう言ったような気がした。
でも、いつも無口で穏やかな織が、そんなことを言うはずがない。
わたし、母ちゃんと喧嘩したことのショックで、幻聴が聞こえたんだ。
―…それからの記憶はない。



