「ほら、おいで」



『すぐに迎えに行くわねっ』

『…あ……あのっ』

『ん?』



迎えに来ようとしている立夏の母さんを、どうして止めてしまったのか、言った後で理由を探していた。



『…俺が娘さんを家までおくりとどけていいですか?』



最終的に言えたのは理由なんかじゃなくて、ただの子供じみたわがまま。



『えっ…いやいやっ、織くんバイトで疲れてるんだから、しっかり休まないとっ…それに、』



俺のことを心から心配してくれる心優しい人。

そういうところも、よく似ている。


わがままかもしれない。

自分勝手かもしれない。

けれど今そうしなければいけない気がして、そうしなければ俺は、これからの人生を、ずっと抜け殻のように過ごしてしまう、そう思った。



『……おくりとどけたいんです』


『無事に…怪我ひとつなく…嫌な思いをせずに……家に帰って…笑顔でただいまって、言ってほしいんです』



『もう…俺じゃぁだめですか…っ…』



誰かを思って必死になるということ。誰かに何かをお願いすること。

そしてそれを、本当に心から願うこと。


俺はそういうことが苦手だし、はっきり言うと意味のないことだと思っていた。


だけど違った。


俺はそれを口にするのが、怖かっただけなんだ

恥ずかしかっただけだ


自分ができないから、羨ましかっただけだ。