「ほら、おいで」



謝ってほしくなくてやったことで、今度は自分が謝ることになるなんて、考えていなかった。

先のことを考えずに行動してしまう自分を、今だけは引っ叩いてやりたいと思う。



「ほんとにごめんっ、ちが、あの、これは無意識で、あっ、ちがっ、口封じで?!」

「とりあえず濡れティッシュで拭いとく?!」



あまりにパニックになりすぎて、自分でもなにを言っているのか分からなくなっていた。

ぐるぐる目がまわって、頭が真っ白だ。


そんな私を見た織は、我慢できなくなったかのように吹き出した。


「っ…ふっ…」


肩を小刻みに震わせて、堪えきれなくなったかのように眉を下げて笑う織。

こんなふうに笑う織は、久しぶりに見たような気がした。


…よかった、織が笑ってる


それはぎこちない笑顔じゃない。

私が昔から知っている、織のあどけない笑顔だった。



不意打ちに頬に何かが触れた。

それは、さっき初めて触れた織の唇。

それを知るには時間はかからなかった。


すぐに離れていってしまった、
優しく触れるだけのキス。


私を見る織の瞳は、優しくて穏やかで、そしてとてもあたたかい。

とろんとした瞳はやがて閉じてゆき、織は気持ちよさそうに寝息をたて始めた。

頬が熱い。心臓がドキドキはやい。



「……電気つけっぱなしだよ」



今思っていることと、全く関係のないことを呟いた。

そうしないと、平常心を保てる気がしなかったから。


もう眠ってしまった織からは、返事はない。


窓の外はもう真っ暗。

それに似合わない明るいリビングのソファで、私達はふたり、寄り添って眠った。