「ほら、おいで」



そんな曖昧な雰囲気に誘われて、心の奥にしまっていた言葉たちが、この時を待っていたかのように押し寄せてきた。



「聞かないの?…どうして私が織の家に来たのか、とか」

「…わたしは織に聞きたいこと、…いっぱいあるんだけどな」



その波に抗うことができずに、自分勝手につぶやいたその言葉は、織にはきっと届いていない。


……眠っちゃったよね、疲れちゃったよね、織ごめんね


心の中でそう謝った後、私はゆっくりと瞼を閉じた。



「…母ちゃんと喧嘩して来たんだろ」



いきなり返ってきた返事。

慌てて目を開けると、織はこちらをしっかりと見据えていた。



「えっ起きてたの?!」



まず恥ずかしさが込み上げてきて、それから一つの疑問が浮かんだ。



「どうして家出したって知っとるの?!」

「…寝落ちる前いってた」

「はっ…覚えてない!!」



落ち着いていた心臓が、またドキドキはやくなっていく。


いつもより熱を帯びたその瞳が、ゆっくりと瞬きを繰り返す。



「………聞きたいことって…なに」



そう言った織の声は、少しだけ震えていた。

ほとんど眠っている織に話しかける気でいた私は、返す言葉を準備していない。



「…本当は私に会いたくなかった?」



だから口から零れたのは、準備していない言葉だった。