「ほら、おいで」




たぶん、すごく近所迷惑だった…と思う。


そうやって冷静に考えられるようになったのは、ある人の家に着いた頃。


肩で息を整えながら、迷うことなくインターフォンをおした。


しばらく待ってみても、返事はない。


こんな遅い時間に、どこか出かけてるのかな…


するりするりと力が抜けて、ドアにもたれかかるようにしてしゃがんだ。



「……母ちゃんと、喧嘩してもうた」



はぁ、と吐いた息は白かった。

部屋着のまま飛び出してきたから、冬にしては随分と薄着だ。


もともと冷え性なわたしにとって、冬は大嫌いな季節。

指先がジンジン痛い。



「……さむい」



そう呟いたとき、頬に冷たい何かが触れた。


そっと上を見上げてみると、まるで小さな綿あめのような雪が、ぽつり、ぽつりと顔に落ちてくる。


暗闇の中、ゆっくりと舞い降りてくる雪は、なんというか……美味しそうだった。


…わたあめみたい


ぐーぎゅるるる。

怪獣みたいな音が鳴った。


それはわたしのお腹の音。


「さむい……お腹すいたぁ」


腕に顔をうずめたとき、シャリ…と、少し砂の混じった足音がした。




「…これは…どういう状況?」



その後すぐに、抑揚のない落ち着いた声が頭上から降ってきて、わたしはホッと安心した。



「えへへ…えと……率直に言うとね、」


「今日泊まっていい…?」



わたしが今いる場所。

それは幼なじみである、織(おり)の家の前。


小学校から中学校まで同じ学校で、高校になって離れてしまった幼なじみ。


中学卒業以来、会っていない。


そして高一年生の冬、いま久しぶりに再開を果たしている。


久しぶりの再開にしては最悪な展開だけれど。




「………は?」