あの日の記憶を、好きじゃなくなったわけじゃない。忘れたいわけじゃない。
大切に、失くさないように、俺の心のなかで、これからも愛しく想っていたい。
心の底からそう思えるようになったのは、立夏と、立夏の母さんのおかけだ。
この苦しみは、俺ひとりで背負ってるんじゃないと、教えてくれた人がいるから。
いつでもおいでと、俺を抱きしめてくれる人がいるから。
これからきっと、立夏との新しい思い出が増えていく。
それを、俺はうれしいと思う。
うれしいと、思うんだ。
「……うん…、わかっ…た」
しばらく雪がふるのを見ていると、柔らかい声で、立夏がそう言ってくれた。
ほっとしたのも束の間、照れくさいことを言ってしまったんだと気がつき、全身が熱くなる。
そんな俺を、くすぐって微笑むように、雪が右頬におちてきた。
「……雪やまないな」「……雪やまないね」
ほてりをごまかすように、ふと口にした言葉は、耳にはいってきたものと同じだった。
数秒の静寂の後、立夏が吹き出すように笑う。
「えっ…?ふははっ…おり、今どこにいるの?」
「ベランダ」
「あははっ…わたしも、同じだ」
同じだ。そう言った声が、すごく嬉しそう。
「ところで織さん、お酒とかのんでるわけじゃ……」
「ちげぇよ」
「ですよね」
俺がらしくないことを言った時、なぜか立夏はお酒をのんでないか確認してくる。
…俺も立夏と同じ年齢なのに
未成年だから、のまねぇよ。



