「ほら、おいで」




「〜〜〜っ…」


……よかった

なにかあったわけじゃなかったのか。



「……そっか」

「うんっ…ごめんね、織あしたバイトなのに、もう寝ないと」



冬だというのに、いっきに変な汗をかいた。


「いや…まだ眠くねぇから、起きてた」


そう言いながら、額(ひたい)にくっついた前髪を、手で雑にくしゃっとした。

そして、なんとなく腰をあげて、ベランダのはきだし窓をあける。


開けた瞬間、夜風がブワッとカーテンをなびかせた。



「…今日はありがとう」



手すりに腕をのせたとき、立夏の凛とした声が、すっと耳にはいってきた。


その言葉だけで、鼻の奥がツンとする。

さすがにもう泣かないけれど、泣きたくないけれど、ぜんぜんなれない。


……立夏からもらう言葉が、ぜんぶ特別に思えるくらい嬉しい、だなんて、きもちわるいよな



ありがとうと言いたいのは、俺も同じだ。



「……ありがとう」

「へへっ…うんっ…じゃ、おやすみ!」

「……うん、…おやすみ」

「……織?」

「…ん?」

「なんか…元気ない?大丈夫?」


え……?元気ない?俺が?

立夏にそう言われて驚いた。

自分がなにを思っているのか、なにを感じているのか、そういうのに俺は鈍感だ。