トン、トン、トン
包丁がまな板に当たる音が響く。
「なにつくるの?ね、なに食べるの?」
「……あぶねぇ、うるせぇ」
「わたしも手伝う」
「いいよ。座ってろ」
「えぇ…」
リズム良くなっていた包丁の音が止まり、織は私の方へ顔を向けた。
「なに、作んの別に好きじゃねぇだろ。」
織の言う通り、料理をするのは好きではないし、それに織の邪魔をしたいわけではない。
お腹が空いたから、早く作れとせかしたいわけじゃない。
ただ、
今のこの瞬間を、楽しい思い出にしたいだけ。
「だってせっかくのクリスマスだもん!一緒に料理したほうが、思い出に残るでしょ」
半分本音で、半分言い訳だった。
…織の料理してる姿を見ていたいから…なんて恥ずかしい言葉…言えないしっ
でも本音も言い訳も、どっちも織と一緒にいたいって思う気持ちは同じなんだ。
ねぇ…おり、私の言い訳に気づいてる…?
気づいていないのか、気づいているのかは分からない。
織は目を細めて、それからふわりと表情をやわらげた。
声に出して無邪気に笑ったわけではないけれど、目を細めて優しく微笑むその笑顔を見ると、ぎゅぅっと胸が苦しくなる。
まるで何か他のことを考えているような、そんな風に見える、その笑顔に。
「……うん」
それだけの返事に、たくさんの感情が込められているような気がした。
昔から、織はあまり笑う人ではない。
―『ほんとうは、ずっと会いたかった』
今になって、その言葉の意味が少しだけ分かった気がする。
もしかしたら織、今わたしと一緒にいることを、案外楽しんでくれているのかも。