「ほら、おいで」



織は目を丸くしていたけれど、私と視線が合うと、ふっと眉をさげた。


気のせいか、瞳が潤んでいるように見える。

それでも織は、泣かなかった。


私より年上みたいに大人で、余裕があって、きっと、なにがあっても大丈夫な人なんだと思っていた。

冷静に解決してみせるような、そんな人だと思っていた。


でもきっと違うよね。


きっと織は弱さを見せるのが少し下手で、だから辛くても涙を我慢して、

ある時ふと突然、堪えきれなくなって涙が溢れてくるんじゃないだろうか。



「…いつでも…おいでよ」



ぽつりと、地面につぶやいたその言葉を、もう一度言うために顔をあげる。



「いつでも…家に帰っておいでよっ…織!」

「また一緒に、あったかいご飯たべよう」



今思い出したよ。

そういえば小さい頃、織はよく泣いてたよね。

くしゃくしゃな顔して、泣いてたよね。


いいんだよ。

いくつになっても、いいの。


両手を広げると、織が驚いたように目を丸くした。

そしてみるみるうちに顔が赤くなっていく。



「ほらほらっ…おいで」



そんな顔されたら、私まで熱くなってくる。