「ほら、おいで」



「そんな……寛大な人になりたいです」



母ちゃんを真っ直ぐ見つめるその瞳から、まるで、優しくて強い灯火のような感情が伝わってくる。


思わず、息をするのも忘れていた。


すぅ…と吸い込んだ息は、冷たい。


な……なに…?

どうして……



「……〜〜〜っ」



どうして本人の前で、少女漫画のヒーローみたいなセリフを普通に言えちゃうの……?!

しかも母ちゃんの前で〜〜…!!


嬉しさと、恥ずかしさと、ドキドキと、たくさんの感情が混ざり合って、全身が熱い。



「あの……立夏…、ノックアウト…なので」



ふらふらしていると、母ちゃんが私の背中をバシバシたたいて笑った。



「なぁに照れてんのよっ、あっははっ」



…母ちゃんのバシバシがいつもより強い気がするのは気のせいでしょうか……


母ちゃんは開けていたドアをパタリと閉じて、織の前に歩いてゆく。



「あのね、織くんは心が狭いんじゃないのよ」


「他人の気持ちを…あなたは自分のことより人一倍考えてしまうから、…寛大だから…過去を悔やんでしまう……織くんは、すごく優しい人なんだからね」



母ちゃんは優しい瞳をしてそう言った。


そして「あっ」と思い出したように声をあげて、「せめてお菓子でも持って帰って〜っ」と言いながら、小走りで家に入っていった。