しばらくすると、どこからか女の子の声が聞こえる。しかも、何度も聞いた声だ。

「いきなりこっちの世界に呼ばれるんだもん。ビックリするわよ。隆幸いるかしら?」

 間違いなく、三樹の声だ。

「あっ、隆幸」

「三樹」

「もう一人の私?」

「ミキよ」

「同じ名前だ」

 隆幸は二人を見る。瓜二つだ。それは当然。同一人物なんだから。


「隆幸、ミキとキスしたの?」

「えっ?」

「分かるのよ。同じだから」

「怒らないの?」

「別人じゃないんだよ? 世界が違うだけで」

「それもそうか」

 隆幸と三樹は笑った。


「何もなくて良かったよ」

 ミキがため息をついて言った。

「そうだね、私、お腹空いた」

 二人のミキが料理を作った。「こっちの世界はどんなものがあるか分からないから、教えて」

「もちろんよ」

 女の子に料理を作ってもらうのは、男のロマンだ。

「なに、ニヤニヤしてるの?」

「いや、嬉しいなと思って」

「女の子に料理を作ってもらうのが?」

「憧れだよ」

「良かったわね、幸せで」

 しかも、好きな女の子からなのだ。嬉しくないわけはない。


「喜んでくれるなら、こっちも嬉しいわよ」

「本当ね」

 しばらくして、料理が出来上がる。

「お待たせ」

 二人のミキの合作だ。

「美味しそう」

「冷めないうちに食べましょ?」

「うん」


「美味しい!」

「良かった」

「三樹はあっちの世界で作ってあげなかったの?」

「たまには作ってあげてたけどね」

「幸せだね。こんなに料理が上手い彼女がいるのは」

「もう、やめてよ」

 三樹が照れる。