まだ祖母が生きていた頃に聞いた、この地方に伝わるという都市伝説のような話。



『満月の夜、花に止まらず月を映した水面にだけ止まる【月光蝶】と呼ばれる蝶がいるんだよ』



 頭の中で鮮明に蘇った祖母の声。

喉がごくりと鳴り、掌がじっとり汗ばんでくる。


 様子が変わった僕を心配そうに見つめる利香は、恐らくこの話を知らない筈だ。

知っているならば平然となどしてはいられないだろう。


なぜなら、この伝説にはまだ続きがあるのだ。



『月光蝶を水面の月ごと両手で掬い、お願い事をする。願いを終えるまで蝶が飛び立たなければ、その願いは必ず叶うのよ』




 ―――今の僕には。いや、僕たちには何としても叶えたい願い事があった。