家までの距離が後数百メートル程になった頃、それまで同じ歩幅で歩いてきた利香の足がぴたりと止まった。



「どうしたの?」



 てっきり帰ることを躊躇っているのかと思ったが、妹はある一点を見つめたまま「変な蝶々がいる」と呟いた。

 確かにこんな深夜に蝶がいるなんて珍しいのかもしれない。


……しかし利香の目線の先を見てみると、そこにいたものは、僕の想像していたよりも確かに『変な蝶々』だった。



 学校の教科書が正しければ、蝶とは花の蜜などに止まる昆虫の筈。

―――しかしその蝶々は家の横に置かれた桶の、それも水面にぴたりと羽を休めていたのだ。



「何で蝶がこんな所に……」



 そう言いかけた時、ある事がふと脳裏に浮かんだ。

振り返り夜空に浮かぶ月を確認する。

見事な満月だ。


……もしかして、これは。