何も起きなかった。

 やぐらの中でトーチ棒だけが燃えている。

「どうしたんだろ?」

「火が点かないね」

「さっきの雨で薪が湿っちゃったのかな?」

 職員さんが、灯油タンクを持って近付き、もう1度、灯油をかけようとした…そのとき、突如、大きな炎が上がった。

 あっ、危ない!

 職員さんは、灯油タンクを落としてしまった。タンクが地面に倒れた。タンクから灯油がこぼれ、こぼれた灯油が川になって流れる。

 そのこぼれた灯油にも引火した。

「きゃああ!」

 パニックが起きた。

 脇には追加の薪と灯油缶が並べられている。あそこにまで火が伸びてしまったら大変だ。

 急いで何とかしないとっ! 水、そう、水を出す魔法だ!!

 でも、私1人だけの魔力じゃ、とてもじゃないけど無理!! そうだ…

 私は瞬時にサキちゃんを見つけると、手首を掴んで、後方に引っ張った。

「こっちに来て」

 みんなは炎に気を取られてて、私たち2人の動きに気付かなかった。

「サキちゃん、一緒に火を消そう! 水を出す魔法できる?」

「えっ? 何のこと?」

「何のことって…サキちゃん、魔女なんでしょ? 時間がもったいないから急いで!」

「ええっ!?」

 サキちゃんが目を丸くする。

 そのとき、サキちゃんとは反対の方向から声がした。

「小山、違う。丸田じゃない。オレだよ、オレが魔術師なんだ」