「彼がすぐに救急車とかを呼んでくれて一命を取り留めたんだ…。感謝しないとな」

お父さんの静かな声が私の中に響いた。

彼が…私を助けた…?

違う…違う…そうじゃない。

彼は私の覚悟を、勇気を踏みにじったんだ。

私は…助かる事を望んではいなかった!

死ぬ事の出来なかった悲しさと彼の空振っている優しさに腹が立った。
そんな私の気持ちなんて知りもせず「よかった…」なんて微笑む彼の姿は私の怒りを加速させるだけだった。





その後、直ぐに病院の先生などが病室に来て様々な検査が行われた。
一命を取り留めた…とは言え相当な重症を背負った身体はほんの少し動かすだけでも激痛が走るほどだ。しばらくの入院が必要らしかった。

私が目覚めた時刻は午前10時で検査を終えた時刻がお昼頃だった。
家族は昼食の買い出しに出かけ、病室に私と彼の2人だけになる。

「なんで…助けたの…」

静かな病室で暗くて怖いトゲのある私の声が響いた。

「死んじゃダメです」
「回答になってない」
「じゃあ、助けたかったから?」
「私は望んでなかった。アンタの自己満足に私を巻き込まないでよ」

ギロリと睨めば彼は眉を下げながら無理矢理口角を上げた。
ヘッタクソな作り笑顔。