「あ、高跳びのテントのとこにテーピング忘れてきちゃった!さやは先に学校のテントに戻ってて!」

そう言って私は駆け足でトラックの内側へと入った。

テントの支柱の元に私のテーピングが置いてあるのを見つけ、ジャージのポケットの中へしまった。

ふと顔をあげると、すぐ隣では男子の砲丸投げが行われていた。

そこにテントの下でストレッチをしている樋山先輩の姿が見える。

樋山翔はうちの学校の一個上の先輩で、多分一度も話したことがない人だ。

男子とは結構戯れあったりしてるけど、女子と話しているイメージはあまりない。

一瞬、

樋山先輩と目があった。

少し胸が高鳴る。

だけど、すぐに逸らされてしまった。

やっぱり先輩ってちょっとかっこよく見えるものだ。

少しずるい。

(学校のテントに戻ろう…)

と思った時、いきなり強い風が吹いた。

私のそばにあったテントの支柱が崩れる。

「あっ…」

目の前が真っ暗になった。

そこからの記憶はない。