『人間交流プログラム』。

「どんな訓練なのでしょうか」

「そのままの意味だよ。朱に交われば赤くなる、ってことわざを知ってるかな?」

「理解しています」

赤に赤を混ぜれば赤くなる、という意味です。

太陽は東から出て西に沈む、くらい当たり前のこと過ぎて、何故ことわざにしたのか、そこは理解出来ません。

「だから君も、朱に交わらせて赤くさせる」

「具体的な訓練方法を教えて下さい」

「よくぞ聞いてくれた!」

…?

何故胸を張って言うのでしょうか。

「早く教えて下さい」

「…情緒ってものがないよ、君は…」

と、嘆くように局長は言いました。

はい、私にはその情緒というものが分かりません。

ですから、それを理解する為のプログラムを、これから受けようとしているのです。

「良いかい、君はこれから、女子高生になってもらう」

と、局長は言いました。

「人間の振りをして、人間として、普通の高校に通うんだ。これが、『人間交流プログラム』の内容だよ」

「人間の振りを…?」

「そう。人間の気持ちを理解するには、自分も人間になった気になって、人間の輪の中に入る!実際に人間の生活を体験し、人間の生活を観察する!それが一番!」

と、局長は自信満々に言いました。

「その、無駄な自信は何処から来ているのでしょうか」

「…無駄な…は余計だよ…」 

と、局長は半泣きで言いました。

「その自信は、何処から来ているのでしょうか」

「このプログラムは、既に実践済みだからだよ」

「実践済みですか?」

「そう。このプログラムが考案されたのは、実は少し前でね。既に、他局に所属する『新世界アンドロイド』がプログラムを体験している真っ最中なんだ」

と、局長は言いました。

それは知りませんでした。

私の他に、『人間交流プログラム』を受けている『新世界アンドロイド』がいたとは。

「その子は、元々君よりは人間の気持ちを理解出来る子だったから、その子を試験的に、プログラムに参加させてみたんだ」

と、局長は言いました。

「すると、その結果は予想以上でね。人間の気持ちを理解するには、とても良い方法だと評価されたんだ」

「成程。それで、成功事例を経た後、次はより厄介な私をプログラムに参加させ、効果を確かめてみよう、という腹積もりですね」

「そういうことだね」

理解しました。

既に効果があると実証されたプログラムなら、期待出来そうです。

「心の準備は良いかな?」

「私に心はありません」

「…その心を、人間達の中で見つけてきてくれたら嬉しいな」

と、局長は言いました。

相変わらず、局長が言う、人間の気持ちを理解出来るアンドロイドであること、に意味があるとは思えませんが。

それが『新世界アンドロイド』の在り方として、必要なことであるなら。

「了解しました。形式番号1027番、コードネーム『ヘレナ』、『人間交流プログラム』への参加を受理します」

私は、人間の心を持つ、人間でないものになりましょう。