アンドロイド・ニューワールド

さて、時刻は午後三時半過ぎ。

本日の授業は全て終わり、放課後になりました。 

私は真っ直ぐに、緋村さんの席に向かいました。

「緋村さん、つかぬことをお聞きしますが」

「え、何…?」

「この後、時間はありますか?」

と、私は尋ねました。

すると、緋村さんはびっくりしたように、こちらを見上げました。

…そんなに驚くようなことを、私は言ったでしょうか?

「…ありませんか?」

「え、い、いや…あるけど、どうかした?」

「ここ一週間と少しの人間観察で、私は学習したことがあります」

と、私は言いました。

「クラスメイトの大半が、放課後を迎えるなり、真っ直ぐ帰宅することなく、誰かが誰かと連れ立って、別の場所に移動しています」

「…あぁ…」

「あるいは、そのまま教室に残って、お喋りに夢中になっている生徒もいます。私は人間の感情を知る為に、彼らの放課後の日常を追体験したいと思っています」

「…つまり、その為に俺に付き合って欲しい、ってこと?」

「そうなりますね」

と、私は答えました。

「無論、緋村さんに予定がなければ、の話ですが。時間に余裕がなければ、後日で構いません」

「いや…時間はあるけど…。どうせ、バスは30分おきに出てるし…」

と、緋村さんは答えました。

「緋村さんは、バス通学なのですね」

「これだからね」

と、緋村さんは車椅子を指差して言いました。

成程、移動力に欠ける車椅子に乗っている為、バスに乗って移動する、ということですね。

理解しました。

「分かりました。では万が一バスに乗り遅れた場合は、私が担いでご自宅までお送りしますので、心配なさらず」
 
「いやいやいや、それは心配するでしょ…」

「速度を心配されていますか?大丈夫です。一時的でも通常モードを解除すれば、バスと同じ速度で移動可能です。ましてや前述の通り、緋村さんの体重は車椅子を含め、精々60キロ程度。私にとっては、ぬいぐるみを抱えて移動するのと同じ…」

「あぁ、うん分かった…。…ぬいぐるみって…」

と、緋村さんは何処か切なげに言いました。

「…?」

と、私は首を傾げました。

自分をぬいぐるみに仮定されたことが、何か気に食わないのでしょうか。

さて、それはともかく。

「では、遠慮なくお時間を頂戴しますね」

「…どうぞ…」

「まず一つ、質問したいのですが」

「質問?何?」

「彼らは、何処に向かっているのですか?」

と、私は連れ立って教室を出ていくクラスメイトを、指差しました。

どうやら彼らは、帰宅している訳ではないようです。

敷地内の、別の場所に向かっているようです。

放課後なのに、授業でもあるのでしょうか?

それにしては…。

「長物を持っている生徒もいます。何処かに戦いに行くのでしょうか?」

と、私は尋ねました。

もしそうなら、私も『新世界アンドロイド』として、助太刀に入る所存です。

「た、戦いって…。あれは部活でしょ?」

「部活?」

「そう。うちの学校の運動部は、そこそこ活動的だから」

と、緋村さんは答えました。

成程、理解しました。

「確か中学校や高校は、放課後に部活動というものを行うのでしたね」

「そう。それも、本で得た知識?」

「はい」

と、私は頷きました。

そうですか。本当に、部活動というものを行うのですね。

私はどの部活動にも所属していないので、気づきませんでした。

不覚です。