アンドロイド・ニューワールド

教室に戻ってから。

「僭越ながら緋村さん、このままの流れで、昼食もご一緒させて頂いて宜しいでしょうか?」

「え?うん、良いけど…」

「許可ありがとうございます。では、失礼して」

と、私は答えました。

そして、椅子を持って、緋村さんの席に向かいました。

誰かと一緒に、昼食を摂る。

とても新鮮な体験です。

誰かと一緒に食べたからといって、別に食べるものの味が変わるとは思えませんが。

しかし、誰かに一緒に昼食を摂る、という行為そのものが。

何だか人間らしくて、これは人間の感情を理解するには有益だと判断します。

そういえば久露花局長も、甘いものを食べるとき、やけに副局長や私を巻き込み、「一緒に食べよ!」と誘ってきますね。

例え食べ物の味が変わる訳ではなくても、人間にとっては、誰かと一緒に食べるという行為そのものに、何らかの意味があるのかもしれません。

と、推測します。

そして、私が購入したばかりのくるみパンを咀嚼していると。

「どう?くるみパン美味しい?」

と、緋村さんは尋ねました。
 
「はい。まるで、パンの中にくるみを混ぜたような味がします」

「…そういうパンだからね」

と、緋村さんは答えました。

ちなみにですが、緋村さんが選んだのは、私が選んだくるみパンと、

それともう一つ、メロンパンです。

メロンパンは私も知っています。食べたことはありませんが。

メロンパンという名前なのに、実はメロンの要素は一切含まれていないそうです。

人間のネーミングセンスに、疑問を抱きます。

「焼きそばパンとどっちが好き?」

と、緋村さんは尋ねました。

「さて、どちらでしょう…。どちらのパンも、私の味覚に不快感を与える味ではありませんが」

「…そう…」

「でも、食感はくるみパンの方が好みですね。そして、何故か理由は分かりませんが、昨日まで食べていた焼きそばパンよりは、こちらの方が美味であるように感じます」

と、私は答えました。

「え、本当?」

「はい」

と、私は答えました。

自分でも、理由は分かりません。

これが、誰かと一緒に食べるときの相乗効果というものなのでしょうか?

理解不能な概念ですが、しかし現に今、私は昨日の昼食より、今日の昼食の方が好ましいと判断しています。

…単に、ずっと焼きそばパンばかりだったから、飽きていたのでしょうか?無意識に。

それにしては、久露花局長は、毎日チョコレートを齧っていましたが。

彼は、飽きるということを知りませんでした。

本当に美味だと感じているものは、毎日食べても飽きないのかもしれません。

とにかく。

転入しておよそ一週間と少し。

今日緋村さんと共にした昼食が、一番美味だったことは、紛れもない事実です。