アンドロイド・ニューワールド

「日替わりで…?しかし、私は焼きそばパンを通して、人間への理解を…」

「いや、人間だからって、皆が焼きそばパン好きな訳じゃないし…」
 
「え、そうなんですか?」

「…そうだよ…」

と、緋村さんは力なく言いました。

そうだったのですか。

それは知りませんでした。

しかし、確かにこの陳列棚に並ぶ、様々な菓子パンのラインナップを見たところ。

焼きそばパンにのみ、需要がある訳ではないことは、明白です。

売れないものを、わざわざ売る意味はありませんからね。

「そうだったんですね…。人間も、色々と好みがあるんですね」

「…そうだよ…」

「それは知りませんでした。ちなみに、緋村さんの好きなパンは何でしょう?」

「え?えぇと…くるみパンかな?」

と、緋村さんは答えました。

くるみパン。食べたことはありませんね。

くるみを生地に練り込んだパンでしょうか。

それとも、中にくるみがぎっしり詰まったパンでしょうか。

いずれにしても、木の実を加工してパンと掛け合わせるとは、さすが人間です。

食文化に精通していますね。 

「では、私は今日、あなたの好きなくるみパンを食してみようと思います」

「え…?別に、久露花さんの好きな味を買えば良いと思うよ」

「『新世界アンドロイド』は元々食事をしないので、自分がどの味を好むのか分かりません。物は試しです」

と、私は言いました。

そして、陳列棚からくるみパンを二個、手に取りました。

その内の一つを、緋村さんに渡しました。

「はい、どうぞ」

「…何で?」

「?お好きなんでしょう?一緒に食べましょう」

「あぁ、うん…」

と、緋村さんは曖昧に頷きました。

やはりここは、くるみパン好きな緋村さんにも譲らなくてはならない、と判断しました。

「では会計してきます」

「え、一つで良いの?」

「はい?」

「一個で良いの?お腹空かない?」

と、緋村さんは尋ねました。

カロリー量的に、パン一つで足りるのか、という質問でしょうか。

「心配してくれてありがとうございます。しかし私達『新世界アンドロイド』は、そもそも食事を必要としないので、そして空腹感も満腹感も感じないので、一個だろうと百個だろうと、何も変わりません」

と、私は答えました。

これはあくまで、単なる嗜好品でしかありません。

しかし。

「うん。『新世界アンドロイド』?でも、ちゃんと食べた方が良いよ。はい」

と、緋村さんは言いました。

そして、私にジャムパンを差し出してきました。

これを食べろということでしょうか。

私は、一応ジャムパンを受け取りました。

…人間である彼が、そう言うなら。

私は、同調圧力に屈するべきかもしれません。

では、本日の昼食は、くるみパンとジャムパンということにしましょう。