『Neo Sanctus Floralia』は、私や局長、副局長が所属している組織の名前です。

この組織は、主に私のような人造人間、アンドロイドの生産に着手しています。

私達の呼称は局によって様々ありますが。

私の所属している第4局では、私達人造人間は、『新世界アンドロイド』と呼ばれています。

「私達は、君達『新世界アンドロイド』を、まるで人間のようなアンドロイドに育てたいと思ってるんだよ」

と、局長は言いました。

…。

「何故か分かるかい?」

「…理解不能です」

「君が言うような、『人間視点じゃない』ただのアンドロイドを造るのは簡単だ。『Neo Sanctus Floralia』の技術があれば容易いこと」

と、局長は言いました。

「でも、それじゃあ意味がない。何故私達が君達に、番号だけでなく、それぞれに名前を与えていると思う?」

確かに、私には『ヘレナ』という名前があります。

「…それは、効率良く個体を識別する為に」

と、私は答えましたが。 

「それだけなら、番号でも構わない。機械的な番号で君達を呼び、部屋に閉じ込め、言葉を交わすのは実験のときだけ。とにかく私達に従順で、機械的な言動しかしない。そんな『ありきたりな』アンドロイドを造るのは簡単だし、それじゃあ君達を造る意味がない。それは旧世代のアンドロイドの在り方だ」

「…では、私の在り方はどんなものであれば良いのですか?」

「今言ったでしょう?限りなく『人間的な』アンドロイドだよ。だから私は君のことを、『新世界アンドロイド』と呼んでるんだ」

と、局長は言いました。

その呼称に、そんな意味が。

「しかし、人間の感情は、人間が一番良く知っています。ならば今更、私達アンドロイドが人間の感情を理解することに、何の意味があるんですか?」

「人間の感情が理解出来るアンドロイドであること、それそのものが意味のあることなんだよ」

と、局長は言いました。

新しい発想です。

「そして私は、君にそうなって欲しい。人の心に寄り添える、『人でないもの』になって欲しい」

「…はい」

「なれそうかな?」

と、局長は聞きました。

「先程優秀だと言われたばかりですが、全く自信がありません」

「…うん。まぁ、今までの君の言動を見るに、今のところは無理そうだね」

と、局長は言いました。

「よし、じゃあヘレナちゃん。人の感情を理解する為に、一つコツを教えよう」

「コツですか」

「そう。まずは、『人間になった気分で行動すること』だ。分かる?」

「…人間になった気分で…」

と、局長は簡単に言いますが。
 
ならば局長は、今から「アンドロイドになったつもりで行動してください」と言われて、その通りに出来るのでしょうか。

非常に難しい。これは難題です。

「…例えばさっき、私は君を褒めたよね?褒めまくったよね?」

と、局長が言いました。

甚だ疑問です。

「いつのことですか?」

「君は優秀だね、美人だねって言ったでしょ?」

「はい、聞きました」

「あんなに褒めちぎったのに、君はち…っとも喜んでなかった」



「喜ぶ?自分に対する正当な評価を受けて、何故一喜一憂する必要があるのですか」

「…人間だったらね、普通は喜ぶところなんだよ、そこは…ねぇ翠ちゃん」

「そ、そうですね…。美人だねだとか、真面目ですねとか、褒め言葉をもらったら、一般的には喜ぶのが人間の当然の反応ですよ」

と、副局長は言いました。

理解し難いです。

容姿や性格など、自分で決められるものではなく、生まれたときから決まっているものです。

生まれたときに決められたものを、好意的に評価されたからといって、何故喜ぶのでしょうか。

人間は、「あなたは女ですね」とか言われても、いちいち喜ぶのでしょうか。

褒め言葉の定義が分かりません。

「残念ですが、私には理解不能です」

と、私は言いました。