教室に戻ると、奏さんが待っていました。

少々遅くなってしまったので、もう帰ってしまわれたのではないかと思いましたが。

ちゃんと待っていてくれたんですね。ありがとうございます。

「お待たせしました、奏さん」

「あ、瑠璃華さん…。お帰り」

と、奏さんは言いました。

ちゃんと普通の、はっきりした声で。

しかも、真っ直ぐに私の目を見て。

知っていますか?出会った当初と比べて、奏さんの声量は、かなり大きくなっています。 

最初の頃は声も小さく、視線も低くて、決して私と目を合わせることはありませんでした。

しかし今は、普通に語りかけ、ちゃんと私の目を見て話しています。

これだけでも分かるでしょう。

いかに、これまで奏さんが一人、虐げられてきたか。

私の大事な親友を虐げるなど、誰が許しても、私は許しません。

「遅くなって、申し訳ありません」

「それは別に良いけど…何の話だったの?」

と、奏さんは聞きました。

奏さんの性格的に、きっと先程の職員室でのやり取りを聞いたら…。

…多分、卒倒しますね。

自分のいないところで自分の話をされるのは不快だ、と、以前読んだ本に書いてありましたし。

本当のことを言うのは、やめておきましょう。

「別に大した話ではありません。先日の提出物の確認でした」

と、私は答えました。

あながち、間違ってはいません。

提出物(期末試験の解答用紙)だと思えば。

「ですから、早いところバドミントン部をしにいきましょう」

「うん、分かった」 

「奏さん、最近上手くなってきたので、そろそろ私もスマッシュ入れて良いですか?」

「えっ…。…瑠璃華さんが打つスマッシュって、何だか怖過ぎるから、それはやっぱりナシで」

「…」

「そんな残念そうな顔しなくても…」

と、奏さんは言いました。

いえ、別に残念ではありませんが…。

…何だか私、遠回しに怪力女みたいに言われてませんか?

とはいえ、私と奏さんは、親友の間柄なので。

この程度、ちょっとしたジョークのようなものです。

友達同士は、冗談を言い合う仲だと、朝比奈副局長も言っていましたし。

だから、これで良いのでしょう。