残念?残念だと思ったのですか?私が?

奏さんと週末に出かけられなくて、残念だと?

それってつまり、私は奏さんと出かけることを、楽しみにしていたということですか?

そんな、まさか。

私に、そのような、いかにも「人間的」な感情があるはずは…。

でも私は今確かに、残念だと言いました。

つい、口からポロッと言葉が出てしまったのです。

無意識の発言というのは、えてして自身の本音を表していると言います。

つまり私の先程の発言、「残念です」という言葉は、私の本音なのです。

親友と一緒に出かけられなくて、残念だと思うなんて…。

自分でも、自分の発言に驚いています。

これは一体、何を意味する現象なのでしょうか?

と、一人思考の沼に嵌っていると。

「…あの、瑠璃華さん、良かったら」

と、奏さんは声をかけてきましたが。

思考することに熱中していた私は、全く聞いていませんでした。

「…」

「あの!瑠璃華さん」

「…あ、はい。何ですか?」

と、私はようやく気づいて、奏さんの呼びかけに答えました。

一体何だったのでしょうか。さっきのは。

すると。

今度私は、もっと不思議な現象を体験することになります。

「瑠璃華さんの言う通り、それはそれ、これはこれだけど…。一緒に出かけられるし、勉強も出来る、良い方法があるんだ」

と、奏さんは言いました。

何と言いましたか?今。

そんな、一挙両得、一石二鳥のような、画期的な方法が存在すると?

それは、是非聞いてみたいものです。

「良かったら、また一緒に勉強しない?俺の…住んでる施設の近くに、良い喫茶店があるんだ。そこで週末に、一緒に勉強したら良いんじゃないかと思うんだ」

「…一緒に勉強…。喫茶店で…」

「瑠璃華さんの頭の良さは、中間試験のときに充分見せてもらったし。また教えてもらえると助かる」

と、奏さんは言いました。

…何でしょう。この不思議な気持ちは。

さっきまで、あれほど残念だと思っていたのに。

例えるなら、船から落とされて溺れているところに。

スッと救助船が現れて、私を拾い上げてくれたような。

そんな感覚です。

私は人間ではないので、どんな大海原に投げ捨てられようが、溺れることはないのですが。

あくまで例えです。

落ち込んでいたものが、一気に急上昇した気分なのです。

この不思議な気分の名前を、何と呼ぶのでしょう?

私は、人間が抱くであろう感情の名前を、一つ一つ思い浮かべてみました。

これは、以前私の中に生まれた感情。「怒り」とは違います。

では、恐怖?

いえ、違います。怒りや恐怖とは、全く両極にあるものです。

人間の感情は、基本的に喜怒哀楽のどれか…。

その中で、今私の抱いている気持ちを表すには…。

…喜び?

そう、私は今、人間で言うところの、「喜び」を感じています。