アンドロイド・ニューワールド

私は、事前に久露花局長から支給された、活動資金を入れた財布を持ち。

さて、教室を出ようと、教室の出入り口に向かうと。

「…あの」

「はい?」

私は、一人のクラスメイトと鉢合わせになりました。

男子生徒です。

車椅子に乗った、男子生徒。

車椅子に乗っている生徒は、このクラスに一人だけなので。

今朝、最初に自己紹介したときから、彼の存在には気づいていました。

名前は知りませんが。

「どうかしましたか?」

「…あの、さっきの…話、ちょっと聞こえてしまったんだけど」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

さっきの話?

それは、湯野さん達と私のやり取りでしょうか?

「購買部なら…廊下の突き当たりを、左に曲がったところにあるよ」

と、車椅子の男子生徒は言いました。

自分で探そうと思っていたのに、まさかの親切な男子生徒のお陰で、探す必要がなくなってしまいました。

私への試練は、何だったのでしょうか。

やはり、神の存在は疑わしいですね。

よく見たら、その男子生徒は、膝の上に白い小さなビニール袋を持っていました。

どうやら、彼も購買部帰りのようですね。

同じ購買部利用者として、好意を持って教えてくれたのでしょう。

有り難いことです。

「貴重な情報をありがとうございます。では失礼します」

「あ、うん…」

私は感謝の印に一礼して、廊下に出ました。

途端、扉を一枚隔てた向こうで、湯野さん達の声が聞こえてきました。

「ちょっとあんた、余計なこと教えないでよ」

「そうよ。空気読みなさいよね」

…?

私は廊下にいるので、教室の中の様子は見えませんが。

今の湯野さん達の発言は、誰に向けて言った言葉なのでしょう?

あんた、というのが誰を指すのか分かりません。

もしその「あんた」が、先程の車椅子の男子生徒を指すのだとしたら。

私は、ますます理解不能な疑問を抱くことになり。

結果、そうこうしているうちに、昼休みが終わってしまう事態になりかねません。

従って私は考えることを放棄し、まずは先程の情報通り、購買部に向かってみることにしました。